5月14日、いよいよリオデジャネイロ五輪の最後の切符をかけた戦いが始まる。そのリオ五輪世界最終予選兼アジア大陸予選(OQT)開幕を前に、9日、全日本女子の記者会見が行われた。
新しいブルーのユニフォームを身にまとった主将の木村沙織は、どこか吹っ切れた表情だった。木村にとって心強い存在が全日本に復帰したことが大きい。下北沢成徳高で出会って以来、東レ、全日本でずっとチームメイトだった2歳年上の荒木絵里香だ。
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2012年ロンドン五輪で主将を務めた荒木は、その後、一度現役生活から離れ、結婚、出産を経て、14/15シーズンのV・プレミアリーグで、上尾の一員として現役に復帰した。
全日本の眞鍋政義監督は、待ってましたとばかりに昨年、荒木を登録メンバーに加えたが、体調を崩したため昨年は合流を見送った。しかし五輪を控える今年、満を持して全日本に復帰した。まだ幼い長女と離れて全日本に行くことには大きな葛藤があったが、荒木は決断した。
「眞鍋監督が呼んでくれたことも嬉しかったですし、ずっとチームを引っ張ってきた沙織の力に少しでもなりたいという思いがあった。何より、家族が後押し、サポートをしてくれていることが一番大きいです」
木村は、「この時期に絵里香さんがチームに戻ってきてくれたのはすごく心強い。全力で頼ろうと思ってます」と満面の笑顔を見せた。過去3年間、荒木は全日本の外にいながらも、主将になった木村の苦労を察していた。
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「私もキャプテン向きじゃなかったけど、ロンドンまでは、竹下(佳江)さんや佐野(優子)さん、大友(愛)さんといったキャリアのある選手がいてくれたおかげで、なんとかやれた。でも今は、沙織よりキャリアのある選手がいない中でのキャプテン。しかも彼女はエースで、すべてのプレーの中心なので、彼女にかかる負担は私の比じゃない。本当に大変だなというのは、遠目から見ていても感じていました」
ロンドン五輪の翌年から全日本は世代交代し、若手選手が多く加わった。木村は、若い選手たちとどう接するか、どうチームをまとめあげるかということに腐心した。木村は言う。
「代表は初めてですという選手が多くなって、自分が、そこに合わせてやってしまったなという印象があります。自分のプレーもあまりうまく行っていなかったので、引っ張りたいけど全然引っ張れていなかった。いろいろ考えすぎていたのかなと思います。今年は絵里香さんが戻ってきてくれて、本当に何でも話せる先輩なので、今年は遠慮することなく、しっかりやりたいなと思っています」
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経験の浅い選手たちのところに下りていくのではなく、荒木と力を合わせてみんなを引っ張り上げるという意気込みだ。ただ、荒木が戻ったとはいえ、OQTが厳しいものであることは、木村は嫌というほどわかっている。
4年前のOQTは、まさに木村が言う「皮一枚で残った」大会だった。
10年世界選手権3位、11年ワールドカップ4位と、好成績をおさめていた日本は、12年ロンドン五輪のメダルに照準を定めていた。そこで、「OQTを1位で通過して、五輪へ」という目標を掲げたが、足元をすくわれた。
格下と思われた韓国に敗れるなど苦戦し、最終日のセルビア戦で2セットを取らなければ五輪出場権を逃すという瀬戸際に追い込まれた。4年間ロンドン五輪のためにやってきたのに、そこにたどり着けずに終わるかもしれないという恐ろしいほどのプレッシャーの中、かろうじて2セットを奪い、4位に滑り込んで辛くも出場権を手にしたのだ。
「前回の経験があるので、今回も、1試合1試合、最悪なことも考えて頑張りたい」
その木村の言葉に、隣に座っていた眞鍋監督がピクリと反応した。4年前の冷や汗がよみがえったのかもしれない。木村は「最悪なこと」の真意をこう説明した。
「4年前もそうだったように、どの試合もどうなるかわからない。もちろんいいイメージは常に持ってやるけれど、実際はいい時ばかりじゃない。状況が悪い時、チームが乗らない時に、その時になって焦っても遅いので、どういう状況に対しても準備をしっかりして臨みたい、という意味です」
今年は眞鍋監督もかたくなに「まずは、OQTで五輪出場権を獲ること」と言い続ける。ある意味、五輪本番よりも過酷かもしれない大会に向かう全日本に、油断はない。
(文/米虫 紀子)