イチローがメジャー通算3000本安打に近づき、アメリカでも話題になる機会が増えている。“3000”は名誉の殿堂入りの条件の1つと言われる正真正銘のレコード。日米通算記録のような分かりにくさもないだけに、時にシニカルな米メディアの間でも注目されやすいのは間違いない。
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7月4日、ニューヨークでのメッツ戦でイチローは代打で右中間二塁打を放ち、これで3000本まであと10本に迫った。規定打席不足とはいえ、この時点で打率.340、出塁率.413という見事な数字を残していることは見逃せない。
「青息吐息で記録に到達するのではなく、これだけ活躍して達成に近づいていることに大きな価値はある。昨季の不振で“イチローはもう終わった”と囁かれた。おかげで新たにモチベーションを掻き立てられたんじゃないかな」
MLB.comのジョー・フリサノ記者のそんな言葉通り、昨季は153試合で打率.229という低調な数字に終わりながら、2016年はベテラン健在を印象付けてきた。キャリア晩年になって、衰えを隠せない姿で何とか大記録に到達する選手は実際にメジャーにも少なくない。その点でも42歳になったイチローは一線を画している。
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そして何より、27歳という遅さでメジャー入りし、それでもマイルストーンに到達するという意味で、イチローの3000本安打はユニークな記録になると言って良い。
27歳以降の通算安打数
ピート・ローズ3357本
イチロー2990本
サム・ライス2925本
ホナス・ワグナー2766本
キャップ・アンソン2727本
スタン・ミュージアル2635本
タイ・カッブ2589本
メジャーでは過去に29人がこの記録を達成しているが、別表通り、27歳以降で3000本以上のヒットを積み重ねたのはローズ一人しかいない。ミュージアル、カッブといった伝説的ビッグネームですら3000に遠く及ばない。そんな比較対象からも、ローズ、イチローという2大ヒットメーカーの息の長さが伝わって来る。
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6月14日のパドレス戦でイチローが日米通算安打数でローズを追い抜いた際、その記録の取り扱いが議論の対象になった。日米のリーグのレベルの差以前に、日程、球場など様々な点で違う2リーグの記録を合計してしまうのはやはり強引すぎる。ローズこそがアメリカの“ヒットキング”として君臨し続けるべきではある。その一方で、イチローとローズの27〜42歳の記録を比べると、ほとんど差がないのも事実。そういった意味で、安打を打つ能力に関して、イチローはやはり通称“チャーリーハッスル”に比肩し得る稀有な選手なのだろう。
27〜42歳の記録
イチロー打率.314出塁率.357長打率.4052990安打
ローズ打率.309出塁率.383長打率.4183091安打
通算3010安打のウェイド・ボッグスより3つ、同3055安打のリッキー・ヘンダーソンより7つも上の年齢でメジャーリーグに辿り着いたイチロー。それでもこれほどの実績を残してきたのだから、“キャリアを通じてメジャーで過ごしていたらどれだけ記録を伸ばしていたのだろう?”という声が挙がるのも当然のことではある。
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「イチローがMLBでキャリアをスタートさせていたら、ピート・ローズの記録を破っていただろうと私は考えている」
NBCスポーツの大ベテラン記者、ジョー・ポスナンスキーはそう記している。日本時代からの安定した実績、さらには今季の復活を見せられたあとで、ポスナンスキーと同じ意見を持つ米メディアは実は決して少なくない。もちろんすべては推測に過ぎず、実際にそうなっていたらどうなるかは知る由もない。ただ、こういった仮定の話が出ること自体、イチローの存在に敬意が表されている証なのだろう。
2016年はイチローが大記録に到達するシーズンであり、同時にそのスキルが感謝され、実績が再評価されるシーズンにもなっているのである。
(文/杉浦大介)