名刑事難事件に挑む★容疑者は警備員!証拠を掴め

今から21年前、横浜市内のとある銀行でそれは発覚した。
この銀行では、営業時間外でも契約店舗が売上金を預ける事が出来るよう、外側に夜間金庫を設けていた。
投入された売上金は、行員が毎朝開店前に回収、入金手続を行うのだが、現金が入っているはずのバッグに、なんと漫画雑誌が詰められていたのだ!
行員はすぐに、預け主のスーパーに連絡、スーパーの店長が警察に通報した。

事件が起きたのは横浜市でも有数の大型スーパー。
店長は営業終了後、一日の売上金を専用バッグに入れ、それにカギを掛け、事務所内の金庫に保管。
無論、金庫も施錠していた。

深夜、警備会社から派遣された、2名の警備員が売上金の入ったバッグを回収に向かう。
彼らは金庫のカギは持っているが、バッグのカギは持っていないので、売上金に触れることはできない。
売上金を回収した後、銀行の外に設置してある夜間金庫に投入。
銀行にはバッグのカギがあるため、行員が開け、入金手続をするという流れである。
だが、その前日の売上金が翌朝には消えていたのだ。

バックに入っていた売上金は3300万円。
すり替えられた漫画雑誌には、指紋が多数残っていた。
警察は、警備員が関わっている可能性が高いとみて、警備員を徹底的に調べることにした。

今回我々は、この事件を担当した元刑事に話を伺う事が出来た。
小川泰平…神奈川県警で窃盗事件を扱う捜査三課に所属した人物である。
小川は、過去の事案から考えても警備会社の人間が怪しいと睨んでいた。
こういう場合、犯行後に無断欠勤をしたり、そのまま辞めてしまうことが多いという。
そして、突然辞めると怪しいので、カモフラージュとして、1ヶ月くらい前から辞めたいと周囲に話していることもある。

しかし、警備会社に聞き込みを行ったところ、最近辞めたいと言っている者も、辞める予定の者もいないという。
帰ろうとしたその時、小川は、現金とすり替わっていたのと同じ漫画雑誌があることに気がついた。
それは、休憩中の暇つぶしとして、置かれている物だという。

翌日、まずは売り上げを回収した、2人の警備員の事情聴取が行われた。
そして、聴取は当日の担当者以外の警備員にも行われた。

安東利久(仮名)は、事件当夜、深夜にコンビニに行ったという。
そして、その時間や買った物も詳しく覚えていた。

小川はその供述に違和感を感じた。
なぜなら、前日の夕食や朝食に何を食べたかという質問には、普通はちょっと考えるのだという。
だが、安東は即答した。あらかじめこういう質問をされるのではないかと、想定していたかのようだった。

さらに、雑誌に残っていた指紋を照合したところ、複数の指紋は全て警備員たちのもので、安東の指紋も含まれていたことが分かった。
事件当日、担当外だった安東が極めて怪しい。

すると、安東が突然、警備会社を辞めた!
しかし、証拠がなければどうすることもできない。
証拠を見つけ出す必要があった。

安東は、その後タクシー運転手に転職していた。
その後の捜査で、歩合制のため安東の働きぶりでは給料は月に10万もいかないこと、たまに競馬をすることが唯一の遊びであることが分かった。

それからまもなく、安東が引越しをした。
安東が以前住んでいたのは、4畳半の古いアパートだった。
しかし引越し先は、10万足らずの給料では到底住めるはずのない高級マンションの最上階だった。
家賃は20万円以上。

マンションの管理人によると、安東は引っ越してすぐに大きな金庫を運び込んでいたいう。
安東の銀行口座を調べたところ、預金はほとんどないことが分かった。
10万足らずの給料に家賃20万以上のマンション…その金庫に盗んだ金を隠しているのではないか?
まだ決定的証拠を掴んでいなかったが、家を調べれば証拠はあるとにらんで、家宅捜索に踏み切った。

安東の部屋に入ると、そこには高さ1メートルほどの金庫があった。
しかし、金庫の中には何も入っていなかった!
だが、安東の部屋で小川はあるものを見つけた。

小川は安東を連日警察に呼び出し、事情聴取を行った。
だが、安東は容疑を否認。
しかし、小川には切り札があった。

それは、安東の部屋で見つけた、一枚の名刺だった。
安東は、水商売で働く『ルミ』という女性にかなり入れ込んでいたのだ。

彼女の証言によると、安東は週に2回くらいの頻度で店に来ては、1日30万円ほど使っていたという。
ルミは、安東と店以外でも高級ホテルのスイートで会っていたという。

さらに、一度、安東の家にも行ったことがあるという。
そして、大きな金庫の中に2000万円ほどのお金が入っていたのを見たというのだ。
しかし、最近は店に来る頻度が減り、連絡もないという。

この事実を突きつけると、安東は驚くべき証言をし始めた。
金庫にあった2000万円は、盗んだ金ではなく、競馬で儲けた金だと言うのだ!
去年の4月の桜花賞、後楽園の馬券売り場で全頭流しで15万円ずつ購入したという。
その馬券が万馬券になったというのだ。

安東が買ったと主張する馬券は、レースの1着と2着を当てるというもの。
安東は出走する馬の中で、1頭を軸として決め、他の馬との全ての組み合わせを購入。
この買い方だと、軸にした馬が1着か2着にさえくれば、必ず当たることになる。

安東の言う1996年4月の桜花賞を調べると、ファイトガリバーは10番人気の馬であり、2着の馬も4番人気だったため…142倍という高配当が付いていた。
馬券を15万で買うと、配当が142.3倍なので、2134万5千円。
ルミが安東の家で見た金額とほぼ同じになる。

ただ、安東がその馬券を買ったという証拠はない。
そこで、供述の裏付け捜査を行ったのだが、確かに後楽園の馬券売り場で、全17頭を流して購入し、翌日に2000万以上の換金をした人物が1人いるという記録は残っていた。
しかし、どこの誰が買ったのかまでは分からなかった。
小川は、供述のどこかに綻びがあるはずと、取り調べを続けた。

安東は、マークシートで255万円分の馬券を1枚買い、その馬券1枚を持って、レース翌日に換金に行ったと供述。
安東は普段、1頭軸で全頭流しで100円ずつで買っている。すなわち、17通りだから合計で1700円、この場合は馬券は1枚発券される。
桜花賞も同じ買い方で、15万円ずつ買ったと供述している。

しかし、JRAに協力してもらい、安東が桜花賞でやった買い方、17頭全頭流しで15万、255万で買った馬券を発券してもらったところ、馬券は4枚発券されたのだ。
一体どういうことなのか?

馬券を見てみると、値段の横に星マークがある。
その星マークには、合計金額のケタが増えると数字が入るのだが、10万の位までしか入らない。
要するに、合計255万円の馬券を買った場合、1枚では金額表示が出来ないのだ。

では、どうするのかというと、75万と表示されたものが3枚と、30万と表示されたものが1枚の合計4枚、発券される。
そう、馬券の枚数は1枚ではなく、4枚ないとおかしいのだ!

さらに、小川は一枚の写真を見せた。
それは、去年の桜花賞で万馬券を取った時の写真だった。
高額配当だと、記念に写真を撮る人も多い。

後楽園の馬券売り場で、安東の供述通りの買い方をして万馬券を当てた人物は確かにいた。
だが、それは安東ではないとにらんだ小川は、競馬場やスポーツ新聞に、その日に万馬券を当てた人は名乗り出て欲しいと告知を出したのだ。
すると、実際に名乗り出てきてくれたのだ!
その人が本当に当てたのか確かめたところ、その馬券の写真を持っていたのだ。

だが、なぜ安東は万馬券が出た事を知っていたのか?
実は、実際に万馬券を当てた人を取材した記事が、ある週刊誌に載っていたのだ。
それがルミが働いていたクラブに置いてあり、安東が見ていたことが判明した。

その後の捜査で、犯行手口が推測された。
安東は深夜、警備員たちが訪れる前に、スーパーの事務所に侵入。
事前に作成した合鍵で、金庫を開け、3300万円が入った回収バッグを取り出した。
さらにそのバッグも、隙を見て作っておいた合鍵で開け、中にあった売上金を抜き取ったのだ。

そして、回収バッグが軽くならないように、現金の代わりに漫画雑誌を入れた。
指紋を残したままにしたのは、他の警備員が疑われるように仕向けたためと考えられた。

安東は最後まで犯行を否認したが、馬券の写真が決め手となり、有罪。
初犯にしては重い懲役6年の判決が下された。

小川氏はこう話してくれた。
「嘘が嘘を生むという事ですね。嘘を正当化するために、また別の嘘をつかなくてはいけないということから、嘘がばれてしまう。必ずその話には、どこかで綻びが出てくると言う事だと思います。」

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