実録!羽田空港大爆破事件

年間利用者数、国内最多のおよそ7200万人。
日本の空の玄関口、羽田空港。
今からちょうど50年前、そんな日本最大の空港を揺るがす大事件が発生した。

事件が発生したのは、夜のラッシュ時。
羽田空港・国内線ロビーの男子トイレで、突然、轟音と共に大爆発が起こった。
この爆発でトイレの中にいた男性客と、日本航空の職員、合わせて2名が重傷を負い、すぐに病院に搬送された。

警察は現場検証を行うと共に、爆破の瞬間、トイレの中にいたという客、窪田(22歳 仮名)に事情聴取を行った。
すると、被害者の証言によって、驚くべき事実が明らかとなった。

事件の4日前、窪田が臨時工員として勤める工場に一本の電話がかかってきた。
その電話の主は、赤木隆史(22歳 仮名)だった。
赤木とは、3年前に知人の紹介で知り合った。
同い年ということもあり、意気投合。
2人は背格好も似ていた。
ここ数年は会っていなかったが、大事な話があるということで、翌日 会う約束をして電話を切った。

爆破事件の3日前。
赤木は愛人を連れてやって来てた。
そして、窪田に儲け話を持ちかけた。

ある荷物を名古屋まで運ぶだけで、報酬が20万円だという。
大卒初任給が2万円ほどの時代。
現在の貨幣価値に換算すると、およそ200万円という破格の報酬だった。
臨時工員として職についたばかりで給料も安く、金に困っていた窪田は、仕事を引き受けることにした。

そして事件の前日、赤木たちとホテルで合流して、最終的な仕事の打ち合わせを行った。
羽田空港から名古屋まで飛行機でカバンを運ぶだけの仕事。
報酬は名古屋に着いたら、カバンと引き換えに支払われるという手はずだった。

打ち合わせを終え、部屋を出ようとした、その時!
信じられない光景を目にした。
窪田が運ぶもの、それは…ダイナマイトだったのだ!

さらに赤木は、万が一のために指紋を消しておこうと、薬品を取り出した。
建築資材として使われる特殊な液体に手を浸すと、指がふやけ、数日間は指紋の溝が潰れた状態になるという。

そして、事件当日。
羽田空港へやってくると、ここでも窪田の足がつかないように搭乗券の名義が、乗るはずの窪田ではなく、赤木の名前にしてあったという。
そして、仕事の最終確認のため、人気の少ないトイレへと向かった。

「ここで少し待っていてくれ」と言って、赤木はトイレの個室に入っていった。
待つこと数分。
すると…赤木がフラリと、トイレから出て行ってしまった。
置いていったカバンを見ると、煙が吹き出していた!
その直後、爆発が起きたという。
現場検証の結果、時限式の爆弾が仕掛けられていた可能性が高いということが判明した。

赤木は窃盗など、これまでに何件もの罪を重ねていた。
警察は彼が鍵を握っているとみて、現場から姿を消した赤木と連れの女の行方を追った。
当時は防犯カメラなどもないため、目撃情報から足取りをたどるしかなかった。

重大事件と判断した警察は、当時としては異例の『広域捜査』を実施。
全国数万カ所にのぼるホテルや旅館へ、一斉に立ち入り捜査を行った。
しかし、赤木らはこの捜査網にかかることはなく、時間だけが過ぎていった。

だが実は、警察が捜査に入る直前に、赤木らは捜査対象の旅館を訪れていた。
しかし、偽名を使い、新婚夫婦を装ったうえに、なるべく人との接触を避け、部屋から出ることもほとんどなかった。
そのため、捜査の網にかかることもなく、全国を転々と逃げ続けることができた。

その後も、赤木らに関する有力な情報を得られないまま、事件から8日が経過。
そんな時だった。
宮崎県のタクシー会社に勤務する運転手がこの日、男女2人組を乗せたという。
その2人組こそ、逃走中の赤木と愛人だったのだ。

運転手は指名手配中の犯人とは気づかず、新婚夫婦だとばかり思っていたのだが、2人は目的地についても車からほとんど降りることなく、行き先を何度も変更。
声を潜めて話す姿に運転手は違和感を覚えた。

その時、ラジオから羽田空港爆破事件のニュースが流れてきた。
赤木たちが全国に指名手配されているというニュースだった。

それを聞いた赤木は、行き先を大分空港に変更した。
だが、運転手は今から大分空港は無理だと断ったという。
そして結局、宮崎に戻り、2人をホテルに送り届けたという。

運転手は、乗せた客が指名手配中の犯人だとは気がつかなかった。
だが、追い詰められた様子から、自殺を図るのではと心配し、念のため通報したという。

通報を受けた警察は、赤木たちの可能性があると判断、すぐに宿に警察官を向かわせた。
そして、指名手配中の赤木たちと確認、逮捕した。

タクシー運転手の通報によって幕を閉じた、爆弾魔・赤木の逃亡劇。
しかし、赤木の行動には謎が残る。
なぜ、ダイナマイトを時限式にしたのか?
一緒にトイレに入った窪田を狙うだけなら、ダイナマイトに火を付けたあとに出ていっても、自分が逃げるには十分間に合う。
赤木の目的とは一体何だったのか?

実は、赤木の狙いはトイレではなく、飛行機だったのだ。
窪田が持ち込んだダイナマイトが離陸後に空中で爆発するように時限式にする必要があったのだ。
当時は現在と違い、手荷物の保安検査がなかったため、危険物を機内に持ち込むことも可能だった。

では一体、なぜ飛行機を狙ったのか?
警察が注目したのは、赤木と窪田が同い年で背格好が似ているということ。
そして、もう1つ…名義の違う航空券。
その裏には、想像を絶する恐ろしい計画が隠されていた。

赤木は1年前に起こした窃盗事件の裁判で懲役3年の求刑を受け、その判決が下りる予定だった。
刑務所行きを逃れたかった赤木が考えた策が、自分自身を死んだことにすることだった。

実は、この前年に起きた飛行機事故では、遺体を見つけることもままならなかった。
また、見つかった遺体も損傷が激しく、身元確認は難しいと報道されていた。

赤木はこの事故にヒントを得て、窪田を自分の身代わりとして飛行機に乗せ、窪田の遺体をバラバラにしようと計画したのだ。
ホテルで窪田に指紋を消させたのも、遺体の指紋を照合されても、身代わりだということがバレないようにするためだった。
さらに、現在の価値でおよそ3500万円の生命保険を自分自身にかけていたことも判明した。

赤木は窪田の遺体が見つかった場合、衣服から身代わりだということがバレるのを恐れた。
トイレに行ったのは、窪田の服と自分の服を取り替えるためだったという。
ところが、誤って時限装置を作動させてしまい、その場で爆発したのだ。

裁判の結果、飛行機爆破を企てたものの、実行までには至らなかったということで、窪田や他の乗客に対する殺人未遂には問われなかった。
だが、殺人予備罪としては異例の無期懲役という判決が下された。

また、一緒に逃亡していた女性は、犯人の逃走を手伝ったものの、計画とは関係がなく、また未成年だったため、家庭裁判所に送られた。
ダイナマイトを運ぶつもりだった窪田も、本来なら通報の義務はあるが、赤木の計画を知らず、被害者となったため、結果的に罪には問われなかった。
もしも、赤木が時限装置を誤って作動させなければ、飛行機が空中で大爆発し、多くの人命が奪われる大惨事となっていたかもしれない。

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