全盲の少年!アメフトへの再挑戦 絶対に諦めない強い心

今年9月、全米大学フットボールの開幕戦が行われた。
対戦したのは、ウエスタン・ミシガン大学と、アメフトの名門・南カリフォルニア大学、通称 USC。
シーズンの滑り出しを決める、大事な開幕戦。
両校、拮抗した展開が続く中、1人の選手に交代が告げられた瞬間、一際大きな声援が湧いた。

ジェイク・オルソン選手。
実は彼、両目が見えない。
そんな彼のプレーが、この後…全米を感動の嵐を巻き起こす。
これは、逆境に立ち向かい、夢を追い続けた1人の青年とそんな彼を支えた人々の奇跡の実話である。

今から20年前、二卵性の双子として生まれた、ジェイク・オルソン君。
彼は生まれながらにして、目に深刻な病を抱えていた。

網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)、眼球内に生じる小児ガンの一種。
16000人に1人の割合で発症する希少な病だが、早期に発見されれば、治療は可能。
しかし、再発や転移を防ぐため、眼球を摘出するケースも少なくないという。

ジェイクは、生後10ヶ月で網膜芽細胞腫と診断され、左目を摘出。
義眼をつけての生活を余儀なくされた。

その後、右目にも転移が見られたが、摘出はせず、抗がん剤などによる治療に加え、2歳までに50回以上も手術を繰り返した。
その甲斐もあり、日常生活に支障はないくらいの視力は保たれていた。

そんな日々の中で、ジェイクが一番楽しみにしていたのが、アメフトの試合を見ること。
彼が熱心に応援していたのは、地元の強豪、南カリフォルニア大学、通称USC。
多くのプロ選手を生み出した名門校で、ジェイクの父の母校でもあった。
その圧倒的な強さは、左目が見えないというハンデを持つジェイクにいつも夢を持たせてくれた。

その後、右目の腫瘍は再発を繰り返したが、ジェイクは辛い治療に耐え続けた。
障がいがあるからといって、やりたいことを諦めない…両親もその思いを尊重し、アメフトやゴルフなど、あらゆるスポーツに挑戦させた。
何事にも前向きに取り組むジェイク。

だが…最も恐れていた現実を突きつけられる…右目の摘出である。
右目の腫瘍が摘出しなければならないほど、深刻な状態になっていたのだ。
12歳の少年にとって、あまりに残酷な運命だった。

父親は、手術の前にジェイクが見たいものを見せてあげたいと考えた。
そして、彼が見たいと願ったのは、憧れのUSCの練習場だった。
試合は見に行けるが、練習は一般公開されていない。
ジェイクは、視力を失う前に憧れの選手たちをまぶたの裏に焼き付けたかった。
だから、より間近で見られる練習場に行きたいと願ったのだ。

そこで、USCの卒業生だった父が、知り合いの伝手をたどると、当時の監督、ピート・キャロルに話が伝わり、練習に招待されたのだ。
この時、偶然、USCの取材に来ていたテレビ局がジェイクの境遇を知り、密着取材を開始した。

後日、ピート監督は、選手たちの遠征にもジェイクを招待。
さらに、チームの一員として、フィールドに立たせてくれたこともあった。
ジェイクが最も憧れていたスタープレーヤー、背番号61のクリス選手との対面も実現。
クリス選手は、手首のテーピングにジェイクの名を刻み試合に出場した。

その後も、何度か練習に参加したジェイク。
手術の前日に練習場を訪れると、チームメイトはまるで家族のように激励してくれた。
そして、手術が終わったら、練習場にまた来る事を約束した。

手術は無事終了。
他の組織への転移はみられなかったが、ジェイクは光を失った。

手術から6日後、ピート監督との約束、USCに再度訪れたジェイク。
クリス選手とも再会を果たした。

この日から、ジェイクの新たな挑戦が始まった。
USCのアメフト選手になるという夢は、諦めるしかなかったが、父のサポートの元、本格的にゴルフに挑戦。
勉強面でも努力を続けた彼は、双子のエマとともに普通科の高校に入学。
ゴルフに勉強、新しい友人たちに囲まれるなど、逆境に負けず、充実した日々を送った。

そんな頃、プロチーム『シーホークス』へ移籍していたピート氏から、チームのウォーミング・アップに招かれた。
そこで、ある選手から一緒にやろうと誘われたのだが、ジェイクが目が見えないからと断ると、「ロングスナッパー」ならできるだろうと言われたのだ。

攻守交代を繰り返し、陣地を取り合うゲーム、アメフト。
選手交代は何度でも可能なため、攻撃や守備など、試合展開に合わせてその都度、最適な選手をフィールドに送り込む。
攻撃時に送り込まれるのが『オフェンスチーム』、守備は『ディフェンスチーム』。
そしてもう一つ、『キッキングチーム』というものが存在する。
彼らは、キックによって陣地を大きく奪う作戦に出る時や、ペナルティーキックを得た時などに送り込まれる。

その際、キッカーにパスを送るのが、ロングスナッパーの役割。
このパスを行うためだけの極めて専門性の高いポジションだ。

試合では、敵を目の前にした状態でパスを出す。
パスをした瞬間に相手はボールを奪いに来るため、絶対に失敗は許されない。
少しでもパスが逸れると、ボールを奪われ、相手から攻撃を受けてしまうこともある。
ボールを奪われ、カウンターを受けないためにも、常に完璧なパスが要求される。
プロの中には、このポジションで年俸1億6千万円を稼ぐ選手もいるほどだ。

そして、一緒にウォーミング・アップをした選手が、ジェイクのスナップを褒めてくれた。
この出来事が、視力を失い一度は諦めたアメフトへの情熱に火をつけた。

ジェイクの前向きな気持ちを尊重した両親からは、アメフトへの再挑戦を許可。
彼の通っていた高校のアメフト部は、全米で1万4000ある高校アメフト部の中でも、トップ20以内に入る強豪校。

アメフト部の監督に気持ちを伝えに行くと…「シーズンが終わったらまた来なさい」と言われた。
チャック監督にその時の心境を聞いてみると…
「目の見えない人がアメフトをするのが、どれだけ危険で大変か…その場では彼のチャレンジ精神を潰すことになってしまうかもしれないと思い、はっきりと断りませんでした。時間が経てば考え直すだろうとも思っていたんです。」

しかし、シーズンが終わると、ジェイクは再びチャック監督の元を訪れた。
この時、監督ははっきりと入部を断った。
それでも、ジェイクは何度も部屋を訪れ、アメフトへの熱意を伝えた。

そして、ついに入部が認められたのだ!
他の部員に怪訝な顔をされながらも、ジェイクはひたむきに練習に取り組んだ。
アメフトのボールは、少しでも斜めになると、回転がブレ、正確な位置へパスが出せなくなる。
目が見えないため、手の感覚に頼るしかないジェイクは、他の選手の何倍も練習を続けた。

数ヶ月後、レギュラーをかけたトライアルに臨んだ。
ジェイクのスナップの正確さに、チームメイトも監督も驚きを隠せなかった。

そして、ジェイクはロング・スナッパーとして、試合に出場。
その後、高校2年間にわたり、シーズン全10試合、全てに出場するという、チームにとって必要不可欠な選手へと成長した。

そして、高校卒業を迎えたジェイク、合格した大学は、あのハーバード大学!
アメフトだけではなく、成績も優秀だったジェイク。
目の不自由な子供たちへの慈善事業にも積極的に参加していたことも評価されて、見事合格となった。

しかし、ジェイクはハーバードには行かないという!
実は合格していた大学がもう一校あった。
それは…憧れのUSC。
これまで背中を押し続けてくれた父親の出身校だったことも、入学の決め手となった。

USCに行くからには、アメフトを続け、USCの選手になるという小さい頃からの夢を叶えたい。
早速、アメフト部に入部したジェイク。
しかし、全米屈指の強豪。
100人近くの部員が所属し、選手層はかなり厚い。
しかも、チームにはロングスナッパーとして、絶対的な信頼を得ていた選手がいたため、出場は絶望的だった。

それでも、ひたむきに練習を続けるジェイク。
彼を試合に出してあげたい…チームメイトやコーチは次第にそう思うようになっていった。
だが、ジェイクは特別視されることを嫌い、「試合に出る実力が付いたら出してください」と言ったという。

入学から2年で体重は18キロ増。
他の選手にも引けを取らない体になった。
そして、3年生の時、ついに念願だった背番号を獲得した。
その番号は…61。
子供の頃の憧れ、勇気をもらったクリス選手と同じ背番号だった。

そして、今年9月2日、大学リーグのレギュラーシーズンが開幕。
相手は格下のウェスタン・ミシガン大学。
下馬評では圧倒的に有利と思われていた。

しかし、最終クオーターに突入しても、21対21の大接戦。
残り7分でようやく勝ち越しに成功。
その後さらに追加点を獲得。

残り3分、勝負を決したい重要な場面で、ジェイクがロングスナッパーに指名されたのだ!
3年目にしてようやくつかんだ念願の試合出場。
全盲ながら夢を追うジェイクのことを知っていた観客からは、大きな歓声が湧いた。

そして、寸分の狂いもないパスを出した。
結果、ジェイクのもたらした点が駄目押しとなり、開幕戦を勝利!
今シーズンの優勝へ向け大きな弾みとなった。

ジェイクは、インタビューにこう答えてくれた。
「僕は人生において戦い抜くという信念を持っています。たとえ視力を失っても夢や希望を捨てない。マイナス面をネガティブに考えない。この試合が今までの全てを価値あるものにしてくれました。」

あの試合の後、ジェイクは最初にUSCの練習場へ招待してくれた、ピート・キャロル監督にツイッターでメッセージを送った。
『監督があの時、僕をUSCに迎え入れてくれなければ、人生はどうなっていたかわかりません。本当に感謝しています。昨日は僕にとって最高の日でした。この出来事が未来に向けての第一歩となることを願っています。これからも見守っていてください。』

試合会場では、家族とも喜びを分かち合ったジェイク。
次の出場に向けて日々、邁進している。

Close×