あなたならどうするSP アンビリバボーな決断の数々『昭和の刑事!驚愕のトリック捜査』


今や、犯罪捜査になくてはならない、防犯カメラや位置を特定できるGPSなどのハイテクツール。
しかし、かつては…携帯電話もコンピューターもなかった。
それでも昭和の刑事たちは、知恵を絞り、アンビリバボーな秘策を考え、悪と戦っていたのだ。

事件は今から54年前、東京オリンピックが開催された年の1月6日、北海道・釧路市で漁業を営む網元の家で起こった。
網元の川辺さんの家にヤクザをなのる男から、突然電話がかかってきた。
そして「急に金がいるんや…200万用意しろ」と言うのだ!
現在の価値に換算すると、2000万円もの額だった。

さらに、男はこう続けた。
「あんたの可愛い2人の娘さんがどうなってもいいんか! 警察に連絡したら娘を殺す!200万円は、娘の命と引き換えや!」

娘たちは何事もなく家にいたのだが…命と引き換えと言っている以上、今後、危害が及ぶかもしれない。
川辺さんは警察に通報した。

実はこの前年、4歳の男の子が身代金目的で誘拐・殺害された「吉展ちゃん事件」が起こっていた。
犯人は身代金奪取に成功。
その後、警察がテレビやラジオで犯人の声を流し、情報提供を求め、日本中の関心を集めた。
川辺さんの場合、娘にはまだ何も起こっていなかったが、吉展ちゃん事件のこともあり、一家は恐怖に震え、警察も全力で捜査に当たった。

とはいえ、現代と違い、携帯電話などで発信元の位置を特定できるわけもない。
かかってくる電話が頼りだ。
そこで、テープレコーダーを準備し、犯人の声を録音することにした。

こういう場合、逆探知を行えばいいように思えるが…それまで逆探知は「通信の守秘義務」を犯すという理由で、「違法」と認識されていた。
そして、「吉展ちゃん事件」をきっかけに、ようやく「合法」と認められたばかり。
この事件は、それからわずか数週間後に起こったため、釧路署にはまだ逆探知機が設置されていなかったのだ。

警察が張り込んでから4時間後。
再び犯人から電話がかかってきた。
刑事が川辺さんのフリをして対応した。
お金を用意できないというと、電話は切れた。

警察はすぐに録音した音声を分析。
背後からざわめいた声が聞こえるため、電話をしているのは賑やかな場所の公衆電話であると推察された。
しかし、場所までは分からない。

さらに、当時 家に固定電話を設置するには、15万円(現在の150万円相当)の設置料が必要であり、電話のない家がほとんどだった。
そのため、公衆電話の需要が高く、電話ボックス以外にも、商店の店先など、至る所に設置されていたのだ。

1回目の電話から約1時間後。
再び犯人から電話が…川辺さんのフリをした刑事が「2、30万ならなんとか用意できそうなんですが」というと、「明日の夕方釧路駅前に持ってこい」という。
そして、お金の受け渡しについては…「明日の午後3時に電話する」と言って、電話が切れた。

警察の作戦はこうだ。
犯人からの電話は、午後3時とはいえ、多少前後する可能性もあるため、今まさに電話がかかってくるということを張り込み中の捜査員に一斉に連絡し、目星をつける。
だが、現在のように複数の捜査員が同時に聞くことのできる警察無線が導入されたのは、1975年以降…当時はまだなかった。

装備としては、携帯無線機が30台あるだけ。
1台に対し、特定の1台としか会話が出来ないものだった。
つまり、捜査本部から張り込んでいる捜査員に一斉に連絡する手段がないのだ。
全捜査員に連絡できなければ、犯人から電話がかかっていることが伝えられず、現場の捜査員たちは目星がつけられない…。
だが…ある方法を使えば、全捜査員に知らせることができる…刑事たちはすぐに準備に取り掛かった。

1月7日 朝、釧路署員総出で、市内の公衆電話ボックスや、商店の店先にある電話を見通せる場所に張り付き、犯人がやってくるのを待ち構えた。
そして午後3時。
犯人から電話がかかってきた。
そのことを全捜査員に伝達。

犯人から電話がかかっているという情報を釧路市内に点在している約100人の捜査員、全員に即座に知らせる。
かつ、絶対に怪しまれてはいけない。
あなたが当時の刑事ならどうする?

刑事たちがとったアンビリバボーな方法…それは、釧路署から打ち上げられた花火。
犯人から電話がかかってきたことを全ての捜査員に伝える手段だった。
花火なら、半径2kmにわたって音が聞こえる。
地域によっては今でも使われているが、数十年前までは一般的に、運動会などの雨天中止・決行の連絡を花火で行っていた。

真冬ということもあり、屋外の公衆電話を利用している者は少なかった。
そして、ステーション・デパートの公衆電話で犯人らしき男が確認された。
すぐに確保したいところだが、捜査員1人では取り逃がしてしまう可能性もある。

この時、警察はなるべく多くの捜査員をステーション・デパートに援軍として向かわせようと考えていた。
しかし、もう一度花火を上げても、場所までは伝わらない。
そこで、犯人らしき男の居場所を全捜査員に一斉に伝えるべく、さらにアンビリバボーな作戦にでる!

犯人との電話をなるべく引き延ばしている間に、防災無線から軍艦マーチが流れた。
そして…「ただいまのは、ステーション・デパートの提供でございました。」
広告にみせかけて、全捜査員に場所を伝えたのだ。

逮捕されたのは、失業中の20歳の男。
以前、川辺さんの近所の理容店で働いていたことがあり…川辺さん宅の裕福さ、そして若い姉妹がいることを知って、突発的に思いついた犯行だった。

逆探知も使えず、携帯電話もメールもない時代。
花火、そして至る所にある防災無線を用い、当時一般的だった連絡に見せかけた、警察の伝達作戦。
犯人に怪しまれることなく、それでいて、的確な合図となる方法で、見事、脅迫犯を逮捕したのだ。

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