死体は語る 伝説の観察医が挑む難事件!

1959年からおよそ30年で行なった検視・解剖の数、20,000体以上。
死体に隠された、わずかな異変を見抜き、誰にも暴けなかった真実を突き止めてきた伝説の監察医、上野正彦。
今夜は、自らの手で解剖することなく、部屋にいながらにして、1枚の写真から真相を暴き出す伝説の監察医、上野正彦の驚愕の検視ファイルをご紹介しよう。


『FILE1 異国の不審死体』
今から27年前、アメリカ・カリフォルニア州、ロサンゼルスのあるホテルで日本人が不審死をとげた。
その4年後、上野の元にその不審死の鑑定依頼がきたのだ。


日本で会社を経営している40代の日本人男性が、出張でロサンゼルスを訪れ、ホテルの6階の部屋に一人で宿泊していた。
そして、午前4時頃、ホテルのベルボーイが…男性が庭先で亡くなっている姿を発見した。


男性は足をホテル側に向け、仰向けの状態で亡くなっていた。
その身体は、ホテルの建物から2メートルほど離れていた。
すぐに地元警察が現場に駆けつけ捜査したところ、宿泊していた6階の部屋のバルコニーからの転落死であることが判明。
そこには、高さ1メートルの柵があった。


地元の監察医が遺体を解剖すると、体内から大量のアルコールが検出された。
また防犯カメラの映像などから、亡くなった時間帯、彼は部屋に一人でいたと考えられた。
これらの結果から、他殺の線はかなり薄いとすぐに判断された。


そして解剖の際…両足の太もも裏に擦り傷、「擦過傷」が見られたことから、アメリカの監察医はこう推測した。
まず男性は、部屋を背にし、外を向いた状態でバルコニーの柵に腰掛けていた。
そして、その体勢のまま、柵からずり落ちるように落下。
この時、太ももが柵に擦れた為、擦過傷ができたと考えた。
しかし、彼が誤って落下したのか、それとも 自らの意志で飛び降りたのか、そこまでは判断できなかった。


部屋に遺書もなかったため、警察もこれ以上のことは分からなかった。
だが、男性には1億円近い保険金がかけられていた。
遺族は支払いを求めているのだが、保険会社は事故に見せかけた自殺ではないかと疑っていた。
自殺ならば、保険会社は保険金を支払う必要はない。
そのため、保険会社は遺族への支払いを拒否。
遺族は保険会社を訴え、裁判になった。


裁判に際し遺族側は、日本の有名大学に在籍する法医学者に再鑑定を依頼。
するとアメリカの監察医と同じく、太腿裏の傷は擦過傷と判断された。
さらに…太腿裏にこれほど大きな擦過傷が出来たのは、誤ってバルコニーに擦られながら落ちたためである、もし自らの意志で飛び降りたのなら、太腿裏に擦過傷が出来るはずがないと結論づけた。
つまり…この男性は、誤って滑り落ちた『事故死』であると鑑定したのだ。


そのため、保険会社側が敗訴になる可能性が非常に高く、弁護士は最後の望みを賭け、上野に相談に来たのであった。
上野は、アメリカの監察医が擦過傷と断定した太腿の裏側の写真に着目した。
実は、ここにこそ真相を導く大きな鍵が隠されていた!


さらに、アメリカの監察医が結論づけた落下状況にも矛盾があることも判明した。
男性は発見された際、建物から2メートル離れた位置で足をホテル側に向け、仰向けの状態で倒れていた。
上野は部屋を背にした状態で落下したのなら…そのまま尻もちをつく形になるため、頭がホテル側を向くはずだと指摘。


仮に着地した時、前のめりになったとしても、地面にうつ伏せの状態になる。
また柵からずり落ちたのであれば、遺体は建物のほぼ真下にあるはずで、2mも離れた位置に倒れていたのは明らかに不自然であると考えた。


以上のことから、上野はこう推測した。
男性は、後ろ向きの状態で柵に捕まり、足で勢いをつけて飛び降りた。
結果、建物から離れながら落下、2m 離れた場所に倒れた。


しかし、疑問は残る。
もし、後ろ向きに飛び降りたのだとすると、なぜ太腿の裏に傷がついたのか?
上野は…解剖中に撮影された、太ももの裏側の写真こそ、真実を解明する鍵だと言う。
そもそも、柵に擦れたのであれば、太もも全体にまんべんなく出血が見られるはず。
だが、検視の際に撮影された写真では、出血した部分の中心付近が白くなっていたのだ。
上野によると、アメリカの監察医や日本の法学者が『擦過傷』と判断した傷は『擦過傷』ではなく、『辺縁性出血』だと言う。


体が固い地面などに激しくぶつかった場合、その衝撃で骨と地面が密着したような状態になる。
結果、そこで圧迫された血液は、骨の直下ではなく、周辺に皮下出血として現れる。
これが辺縁性出血のメカニズムである。


鑑定の結果、上野は次のような答えを導き出した。
男性は柵を乗り越え、部屋の方を向いた状態でバルコニーの縁に足を掛けた。
そして…飛び降りた男性は背中から地面に激突!
この時、上半身の動きが突然、止められた。
その反動で振り子と同じ原理が働き、6階から落ちた衝撃よりもさらに強い力で、両足が激しく地面に叩きつけられ…太腿の裏側に辺縁性出血が生じたのだ。


後に、上野が聞いた話によると、男性は自身が経営する会社が傾き、多額の借金を抱えていた。
その日は、大量の酒を飲み…家族を保険金で救おうと、自らこの世を去った、と推測されたという。


『FILE2 消えない証拠』
今から37年前…その日、栃木県警の刑事が、大量の捜査資料を持って、上野の元を訪ねて来た。
大量の捜査資料を持って…


さかのぼること2年、それは栃木県の田舎町で起きた未解決事件だった。
一家は若い夫婦と2人の子供の4人家族。
夫は保険会社で外交員を勤めており、専業主婦の妻は、子育てに追われる日々を送っていた。


ある冬の日の早朝…突如、自宅で火災が発生したのだ。
鎮火後、自宅の中から妻と2人の息子の焼死体が発見された。
司法解剖で、妻の遺体に不審な点がみつかった。


通常、生きたまま火災にあった場合、呼吸をすることによって、煙の中に舞っている煤も吸い込んでしまう。
結果、焼死体の気管には煤が付着する。
しかし、妻の遺体には、それがなかったのだ。
つまり、妻は火災が発生する前にすでに死亡していたことになる。


さらに、内臓には死因に繋がる病変や損傷はなく、アルコールも毒物も検出されなかった。
ということは…他殺の可能性が高かい。
しかし、遺体の損傷が激しく、検視では首を絞められた跡などの他殺を証明する証拠を見つけることは出来なかった。


また出火について警察は、現場の状況から、放火であると推測していた。
その後の捜査で妻子に、多額の保険金がかけられていたことが判明した。
受取人は、夫。


これを受け、警察は夫の周辺を調べる事に。
すると…夫に愛人がいることが判明。
多額の保険金、愛人の存在などにより、夫が怪しいと睨んだ警察は、事情聴取に踏み切った。
夫は事件への関与を完全に否定した。
妻が火災前に死亡していたのは明らか。
だが、死因が不明のため、捜査を進めることができない。
困った警察は上野に助けを求めたのだ。


上野が注目したのは、妻の解剖時、頭頂部の骨と脳を取り去った状態で撮影された、頭蓋底の写真である。
頭蓋底とは、文字通り頭蓋骨の底に当たり、神経や血管が密集する頭部の中心である。
その写真には、青みがかった骨が写っていた。


上野によると、妻は絞殺されたという。
人間の首には、血管の壁が厚い動脈と、血管の壁が薄い静脈が走っている。
そのため、首を絞められると…心臓から脳へ走る動脈の流れは、完全には遮断されないが、脳から心臓へ走る静脈の流れは、完全に止まる。
よって 血が溜まり、顔が赤くなるのだが、これを『うっ血』という。


妻の遺体は焼け焦げており、顔にうっ血があったかどうかは分からなかった。
実は、人間の骨の中には、骨自体に栄養を送るための毛細血管が通っており、頭蓋骨の内部にも血液を供給している。
つまり、首を絞められた場合、頭蓋骨を流れる血液も止まり…顔と同じように骨の内部でも、うっ血は起こるのだ!


それを示していたのが、捜査資料の中にあった頭蓋底の写真だった。
普通に亡くなった人の頭蓋底は真っ白のままだが、絞殺された場合には頭蓋底の骨が濃い青色になる。
人間の腕に浮かぶ血管は、青色に見える。
なぜ赤い血が青く見えるのか、その理由についてははっきりと解明されていないが、これと同じ現象が骨でも起こるのだという。


頭蓋底の骨の中にも静脈から枝分かれした毛細血管が通っている。
それは本来、見ることができない。
しかし、首を絞められ 血流が停止、血管が膨らみ、うっ血状態になった結果…頭蓋底の骨は他に比べ薄いこともあり、青く見えるようになるのだという!


実は、ほとんどの検視官や監察医は、頭蓋底は骨折の有無を見る程度で、詳しく観察する事はない。
今回の事件でも特に重要視されず、頭蓋底の写真は資料の中に埋もれた1枚であった。
しかし、上野は同様の症状を示す溺死を研究していたことがあり、頭蓋底を観察する習慣があったため、この「うっ血」に気付く事ができたのだ。


上野は『妻の死因は首を絞められた事による窒息』と断定し、鑑定書を作成。
そして警察も捜査を進めた結果、愛人の存在が妻に発覚し、夫婦仲が冷め切っていた事が判明。
これらにより、夫が妻の首を絞め殺害し、その後自宅に放火して、証拠隠滅を企てたと推測し、夫を逮捕した。


しかし、一審では、有罪判決が出たが、二審では、夫が妻を殺害し、放火したとするには証拠不十分として、無罪判決に。
そのまま結審となった。
ただ 二審でも、上野の『妻の死因は絞殺によるもの』という鑑定は、事実と認定された。


『FILE3 諍いを招く遺体』
今から34年前の9月、当時、監察医務院の院長だった上野の元を一人の弁護士が訪れた。
上野が鑑定した遺体の再鑑定の依頼だった。


さかのぼることおよそ半年、その日上野は、検死のため警察署を訪れていた。
亡くなったのは、80歳を過ぎた老夫婦。
実況検分を行った刑事たちによると…老婆の姪が家にやってきた所、風呂場の前で裸の叔母と、妻を抱きかかえるような体勢で服を着た夫が…息絶えていたという。


家の中は荒らされた形跡もなく、戸締りもされていたことから、事件性はないと考えられた。
警察は、夫が服を着ていたことから、風呂場で倒れていた妻を救い出そうと試みたところ、何らかのショックで、息絶えてしまったのではと考えた。


現場の状況を聞いた上野は、死因を究明するため、老夫婦の体を隅々まで確認していった。
そして、解剖の結果、妻を病気による心停止、夫をそのショックによる心臓発作と鑑定した。


実はこの2人、長年連れ添った夫婦…という訳ではなかった。
年を重ねてから知り合い、何度か顔をあわせるうち、意気投合したという。
互いに伴侶を亡くし、独り身だったため、やがて、一緒に住むようになり、数年後、晴れて結婚したのだ。


おばあさんは子供がおらず、兄弟も既に他界、身寄りは甥、姪たちだけだった。
一方、おじいさんは息子が他界、孫たちは離れて暮らしていた。
その遺族たちが遺産をめぐって民事裁判を起こしていたのだ。


遺産には、法律により相続に優先順位がつけられている。
両親のうち、一人が亡くなった場合、遺産は配偶者とその子供たちへ。
独身者の場合、両親へ。
両親が亡くなっていた場合は、兄弟へ。
兄弟もいない場合は、甥や姪など、近しい親族の順に相続される。


今回の場合、先に亡くなった妻の遺産は、子供がいないため、配偶者の夫へ相続されることになる。
その後、夫が後を追うように亡くなったため、資産家だった妻の遺産のほとんどは、血の繋がりのない夫の孫たちに転がり込んだ。


法律はどうであれ、妻の親族にしてみれば、遺産を全て持っていかれてしまったようなもの。
親族が納得いかなかったのも、無理はない。
夫が亡くなった時、妻はすでに亡くなっていたとなぜ言い切れるのか?
ただ気を失っていただけで、息があった可能性もあるのではないか?
もし、夫が先に亡くなっていたのなら、多額の遺産を相続できる権利は我々にある、と姪たちは考えた。
結果、両方の親族ともに譲らず、老婆の遺産をどちらが相続するのか、民事裁判で決着をつけることになったのだ。


遺産を巡り、民事裁判へと発展した老夫婦の死。
どちらが先に亡くなったのか?
再鑑定の依頼を受けた上野は、一枚の写真に着目した。
それは、妻の肩についた引っ掻き傷が写った写真だった。
その傷は、夫が妻を救助する際に誤って引っ掻いてしまったものだと推察される。


通常、生きている人間が引っかき傷を負った場合、皮下出血で赤みを帯びるか出血を伴う。
しかし、死後ある程度時間が経つと、血液は重力がかかる下の方へと溜まっていく。
結果、血液がなくなった箇所に傷を負っても、出血することはないのだ。


この事実から肩の引っかき傷は、死後つけられたものと上野は判断した。
妻の死後、その体に傷をつけられる人間は夫しかいない。
つまりこれは、すでに亡くなっている妻を、夫が救助しようとした時についた傷であることを意味していた。
上野は傷の状況から、夫が亡くなったのは妻の死から、少なくとも30分は経過した後だと結論づけた。


つまり、遺産をもらう正当な人間は、夫の孫たちと言う結果は、変わらない…事実を捻じ曲げることはできない。
監察医は、死体が語ることを代弁するのが、最大かつ絶対の使命であるからだ。
しかし、その後、裁判で下された判決は、上野の想像をはるかに超えるものだった。


その後、争っていた両家は和解。
それぞれの遺族に遺産が分与されることとなった。
実は、判決では『老夫婦は同時に死亡した』と結論づけられたのである。


この時のことを、上野は書籍にこう記している。
「私の鑑定は正しいと採用されたらしい。しかし、そういった厳密な事実よりも、人間が生きていく上で大切にしたい社会道徳をこの裁判長は優先させたのだ。」


監察医として、2万体以上の遺体を解剖してきた上野。
そんな彼が、写真だけで事件の真相を見抜いた事例は他にもあった。
それは今から約20年前に起こった、交通事故。
被害者は現場のほど近くに住む女性、頭部を車に轢かれており、即死だった。


偶然、事故の瞬間を目撃した被害者の母によれば…
自転車で坂を下る途中 石か何かに乗り上げ転倒、前の通りに うつ伏せの状態で倒れこんだ。
そこに運悪く車が現れ頭部を轢かれてしまい、勢いで仰向けになったという。


この事故の鑑定を依頼されたのが、上野だった。
彼は撮影された事故現場や被害者の写真をつぶさに観察、ひとつの真実を導き出した。
どんなにキレイに舗装されていても、車が通ればアスファルトが削られ、必ず砂利ができる。
もし、うつ伏せで車に押しつぶされたなら、必ず頬に砂利が着くはず…しかし、被害者の頬に砂利はついていなかった。


さらに…被害者の手はキレイなままだった。
人は転ぶ時、反射的に手で顔を庇うもの。
しかし、死体の手には 転倒した痕跡は見られない。
だが 母親は…被害者がうつ伏せに倒れたと証言していた。
つまり、彼女はウソをついていると上野は判断した。


実はこの事件、被害者の姉が首謀者となり、母や数人の仲間を巻き込み行った保険金詐欺事件だった。
後の裁判で、うつぶせではなく、仰向けに寝かせた状態で、意図的に車で轢いたことが認められた。
首謀者である姉には無期懲役、母親には懲役18年の判決が下った。


これまでいくつもの事件で真相を導いてきた上野は、監察医としての自負をこう述べる。
「完全犯罪を計画しても実際やってみると、その考えた通りにいかない。豊富な経験を持った監察医を欺く事は出来ないと思います。」


Close×