ネット社会に潜む罠!? 見知らぬ人からのメッセージ

ネット社会に潜む罠!? 見知らぬ人からのメッセージ


コロナ渦でオンラインサービスを利用する機会が増えた今、インターネットを使った詐欺が急増している。
詐欺師たちは巧妙な誘い文句を使って、利用者を有名企業そっくりの偽のサイトに誘導、クレジットカードやパスワードといった個人情報を盗み、お金を騙し取る。
アメリカ・ユタ州に住むベン・テイラーさん(36)も、そんな怪しげなメールを受け取った1人だった。


今から3年前、ベンはフェイスブックで見知らぬ人物からメッセージを受け取った。
「こんにちは。西アフリカのリベリアに住むジョエルといいます。神の名にかけてお願いします。あなたの支援を必要としています。仕事をくださるか、金銭的支援で私を助けて下さい。」
ストレートに金銭を求める、いかにも怪しげな内容。


だが、ベンはどう考えても詐欺にしか見えない、このメッセージに返信したのである!
実はベンは…マーケティング会社で働く一方、ユーチューバーとしての顔も持っていた。
フォロワーはおよそ5万人、大人気というわけではないが、これまで詐欺の被害を少しでも減らしたいと、自らのチャンネルでその手口を紹介してきた。
実際、ベンの動画を見て彼に連絡してきた人が、難を逃れたこともあった。
つまり今回の件も、YouTubeのネタになると考えたのである。


支援を求めてきたジョエルと名乗る相手は、西アフリカの国 リベリア在住で、ジャーナリストになりたくて英語を教えているという。
そして、こんな主張をしはじめた。
「僕は子どもたちのために基金を設立したいんです。」


ベンは怪しいと思ったが、こう返信した。
「『私は写真のビジネスをしている。君が住んでいるところの写真を撮って送ってくれたら、良いモノを選んで買うよ。きれいな写真が好きだから、日没の風景を撮って送ってくれないか?』」
もちろん写真のビジネスなどしていない。
詐欺師が写真を撮って送ってくるはずなどない、きっと無視されるだろう、そう考えていた。


だが数日後、本当に写真が送られてきた。
その写真は、日没かどうかもわからない、ひどいものだった。
だが、本当に言われた通りに送ってきたことに、ベンは驚いた。
この写真はクオリティが低すぎて、さすがに買えないと返信すると…性能の良いカメラを買うための資金として20ドル要求された。


そして同時に、…ノートパソコンやプリンターなど、アメリカではたくさん流通して安くなっている電化製品も、リベリアではまだ高く売れるので、仕入れて横流しするビジネスをやろうという提案までしてきた。
そのやり方は、ベンが電化製品をアメリカに住むジョエルの友人に郵送。
友人は地元の牧師の紹介で知り合った、信頼できる人物で…その彼が、電化製品をジョエルの元へと送るという。


明らかに怪しげな話だったが、ベンはやってみることにした。
早速ベンは、ジョエルに紹介されたニュージャージー州に住むリベリア出身のムサという男性と連絡をとった。
このムサを経由し電化製品をリベリアへ転送。
現地でジョエルが販売し、出た利益を3人で山分けするという計画だった。
そしてベンは、ムサに指定された届け先の住所をグーグル検索したのだが…そこは廃業し廃車置場と化した、ガソリンスタンドだった。


怪しいと分かっていたが、ベンは好奇心が抑えられなかった。
そこで、中古のラジオ送信機を買って、それをムサの元へと送った。
もちろんその様子も全て撮影していた。
その間にもジェエルからは…「ムサに荷物を送ったのか?」などと頻繁にメッセージが届いた。
荷物を送ったと返信すると、ジョエルは大喜びだった。


やがて、商品を受け取ったムサから連絡が入った。
ムサは「こんなのリベリアの市場ではあまり売れない、最新の電化製品が欲しい」と言ってきたのだ。
「いいから、それをリベリアに送ってくれ」とベンが返信すると…今度、ムサは送料を要求してきた。
その額60ドル。
しかも、事前に送れという。
ベンが「それは話が違う。じゃ、返送してくれ。」と返信すると、商品が返送されて来ないどころか、ムサからの連絡も一切途絶えてしまったのである。


この間もベンの元には、ジョエルからのメールが来ていた。
それによればジョエルの元にも商品は届いておらず、また彼がムサを疑っているようにも見えなかった。
そこでベンは…ムサが送料として60ドルも請求してきたこと、その後、商品の返送はおろか連絡も取れなくなったことを伝えた上でこうつけ加えた。
「本当にこれは詐欺じゃないのかい?」


ジョエルからこう返信されてきた。
「僕は神のお考えを誰かを通して実現したいと努力している一人の人間に過ぎない。その誰かがあなただと思う。神のご加護のもとで、君と正直に取引したい。これを通して子どもたちのために資金を集めたい。だから、ブラザー、頼む、仲良くなろう。」


ベンは、ジョエルにこう返信した。
「ムサとはうまくいかないと思う。でも、私にはお互いに儲かるビジネスプランがあるんだ。興味はあるかい?」
ジョエルは、興味があると返事をして来た。
これで立場が変わり、ここからはベンが主導権を握ることになった。


提案したのは、数週間前に試した写真の仕事を再開させるという計画だった。
『君には才能がある』とジョエルをおだて、写真を撮って送るように伝えた。
もし詐欺師ならば、こんな面倒な計画には乗らないだろう。


この前は自身の古いガラケーで撮ったというので、以前、ジョエルが言っていた、デジカメを買うのに必要な金額20ドルを送ると伝えると…「最低でも125ドル送って欲しい」と言ってきた。
そこでベンは、ネットで最安値だった30ドルのデジカメを買い、リベリアに送った。
送料はそれ以上にかかったが、これは実験のつもりだった。


ベンが、ジョエルを疑いながらも、やりとりを続けたのには、一連の出来事をYouTubeのネタにするという他にも理由があった。
リベリアは、かつてアメリカで解放された奴隷たちが、アフリカに帰って建国した国。
アフリカで3番目に古い独立国ながら、1989年からの14年にわたる内戦で経済が崩壊。
現在も、世界で最も貧困に苦しむ国の1つである。


北海道の1.3倍ほどの国土に180万人が住むが、多くの国民は1日2ドル以下で生活をしている。
国民の27%は安全できれいな水を飲むことができず、90%は電気のない生活をしている。
インターネットの普及率はわずか8%。
ネットに接続するには、かなり高額な費用を払う必要があることがわかったからだ。
限りなく怪しいという思いに変わりはない。
しかし一方で、ジョエルは本気で仕事をしたいと思っているのではないか?
そう信じたい気持ちも捨てきれなかったのだ。


そこで…ベンは、送ったカメラを使って、リベリアの写真を撮って送るように依頼した。
するとジョエルから20枚の写真が送られてきた。
だがその写真はピンボケで、何が映っているのかもわからないものだった。


ビジネスにするには、今のクオリティでは話にならない。
そこでベンは、ピントの合わせ方や光の使い方などを参考画像を送って詳細に教えた。
そして、リベリアの人々の生活の様子を写真に撮って欲しいと依頼した。


すると、次にジョエルが送ってきた写真は…練習の成果なのだろう、格段に進歩していた。
リベリアの自然と、人々の素朴な生活の情景がいきいきと写し出されていた。
ジョエルも自信がついたのか、今後は撮影料をもらって、ちゃんと仕事としてやっていきたい、そんなメッセージを送ってきた。


ベンはジョエルは詐欺師ではないのかもしれないと思った。
考えた末、なんとジョエルが送った写真を編集、製本して、写真集を作った。
そして値段を10ドルと決め、クラウドファンディングで売り出したのである。
売り上げの目標額は2500ドルに設定した。
とはいえ、名もない男の写真集、売れるはずがないと思っていた。


すると…開始からわずか2日で、何と4000ドルを超える売り上げを記録したのである。
どうしてこんなに売れたのか?
実は…怪しげなメッセージが届いた時から、ベンはジョエルとのやり取りの一部始終を記録、YouTubeで配信してきた。
そのため視聴者たちの中から購入者が続出、なんと40カ国から注文が入った!
オンライン詐欺師かもしれない人物との攻防を、世界中の人々が、固唾を飲んで見守っていたのである。
販売から2週間後には、購入者はおよそ1000人を超え、売り上げも1万ドル以上に上った。


写真集を買ってくれた中には、リベリアという国を全く知らなかった人や、単にネット詐欺に関心があったという人もいた。
たくさんの人々がジョエルという人物に興味を持ち、少しでも協力したいと購入してくれたのだ。
ベンは、約束どおり利益を折半し、500ドルをジョエルに送った。


一方で、ベンは自分の取り分である500ドルをリベリアの人々に還元したいと思うようになっていた。
そこでジョエルに500ドルを預け、使い道を考えてもらうことにした。
ジョエルはおそらく詐欺師ではない、そう思うようになってはいたが、不安もあった。
500ドルと言えば、貧困にあえぐリベリアでは多くの国民の年収に近い額だ。
大金を手にした彼が心変わりしないとも限らない。


ジョエルによると、リベリアの子供たちが一番必要としているのは、文房具やカバンなどだということだった。
一抹の不安はあったが、ベンは自身の利益500ドルをジョエルに送金、100人分の文房具やカバンを購入して、子どもたちにプレゼントしてほしいと依頼した。
それと、同時に…一連の行程を写真に撮って送って欲しいと伝えた。


数日後、ジョエルからメッセージが届いた。
送られてきた写真には、新品のノートやバッグを手にした、たくさんの笑顔の子供たちが写っていた。
そのかたわらには大役を果たしたジョエル自身の姿もあった。
ベンはYouTubeにジョエルの写真を掲載した。
今度こそ100%信じていいと確信した。
そう、詐欺師に違いないと疑い続けてきた相手は、本当に子供たちのことを思いやる、心優しい人間だったのだ。


ベンさんはこう話してくれた。
「今でも信じられない気持ちです。今回のことを通じて感じました。他人との経験を元に人を判断してはいけない。相手を信じて、チャンスを活かせる場をどうやって作るかが、何よりも大切だということを。」


その後も写真集は順調に売れ続けた。
現在までの売上は6万ドル、約6000人が購入している。
他にもリベリアを支援する方法はないのかとの要望が多くなり、ベンは独自にサイトを開設。
写真集で使ったロゴをあしらった、Tシャツやマグカップなどのグッズを製作して販売した。
もちろん、これらの利益の半分はジョエルに送った。


そして迎えた12月。
新たに貯まった利益で、ベンはリベリアの子どもたちにクリスマスプレゼントを贈ろうと計画。
ジョエルに相談して、子どもたちに古着をプレゼントすることになった。
しかし大きさや重量がかさみ、アメリカから送るにはコストがかかりすぎることがわかった。
そこに…1人の協力者が現れた。
仕事でアフリカに赴任しているアメリカ人で、ベンのYouTubeのフォロワーでもあるコーディーという男性だった。


彼はアフリカで700着の古着を調達、運搬も引き受けてくれた。
コーディーや仲間たちの協力を得て、ジョエルのクリスマスプレゼント大作戦が始まった!
ジョエルは、貧しい名もなき人物から、地元で尊敬される名士になった。


ベンは、想像を超える体験をさせてくれた人物、ジョエルに直接会いたいと思った。
旅の詳細をYouTubeでレポートすることを条件に、資金はクラウドファンディングで集めた。
リベリアは、典型的な発展途上国だった。
信号はあっても点いていない。
スラム街にはゴミが散乱し、悪臭がたちこめていた。
街のいたるところで火事や発砲事件が起こる。
いつ命の危険が迫ってもおかしくない場所だった。


空港から車で約2時間、2人は初めて顔を合わせた。
きっかけはジョエルが金銭的支援を求めた、メッセージだった。
詐欺を疑われた男とユーチューバー。
そこからビジネスパートナーになった二人は、ついに本当の親友となった。


ジョエルには7人の子どもがいて、生活は貧しかった。
家には電気どころか水道も通っていない。
だが、電話線が必要な固定電話と異なり、基地アンテナさえ立てれば通話ができる携帯電話は、低所得者でも買える様に安い値段で売られている。
そのためリベリアでもかなり普及しているという。


ジョエルはその携帯電話を使い、フェイスブックでアカウントを作成。
なんとか仕事につなげようと、手当たり次第に海外にメッセージを送ったのだった。
写真集のお金で、屋根を新調できたことをジェエルは喜んでいた。
他にもグッズの売り上げなどで得た収入の多くは、地域の人のために使っているため、なかなか貯まらないのだという。
彼はベンが送った30ドルのデジカメを今も大切に持っていた。


ジョエルは、ベンをこれまで写真を撮った、ゆかりの地へくまなく案内した。
これでベンはジョエルと思いを共有することができた。
帰国後、ベンはこれまでの2人の軌跡を2冊目の本にした。
すると再び世界中から購入希望が殺到し、売上は3万ドルに達した。
この利益もまた、リベリアの人々の生活向上のために使われている。


ジョエルさんはこう話してくれた。
「アフリカでは『貧しい人は信用されない』と言われます。持っている人は、持ってない人を助けることで、尊敬されるし信用もされる。かつての私は他人のことを考える余裕もなかったゼロの人間でした。でも今では多くの友達ができました。中には私のことをヒーローと呼ぶ人もいます。」


ベンさんは…
「リベリアに行って、その貧しさに驚きました。そして現地の人々の生活は、本当に悲しくて希望がない。だからこそ生きるために、貧しい人々は詐欺まがいのことをしてしまう、そのことが理解できました。」
詐欺に遭って傷つく人々を救うためにも詐欺をなくしたい、その思いに変わりはない。
だが、数多くの詐欺かもしれない事例の中に、本当に助けを求める人がいることも、また事実なのである。


ベンさんはこう話してくれた。
「私が言っておきたいのは、フェイスブックやメールで連絡してくる人が、すべて善良ではないということです。でも同時に、人の良い部分を見てほしいとも思います。アフリカにいる人々を助けたいのであれば、一番の方法は自分のために何か仕事をしてもらうことです。仕事でお金を得るということが生きる喜びにつながるんです。」
詐欺まがいのメッセージから始まったやりとりは、国境を超えた友情を育み、多くの人たちに希望を与えた。
ネット社会の膨大な情報、嘘と悪意を超えた先には、奇跡のような人との触れ合いがあるのかもしれない。


ジョエルとやり取りを始めた頃、およそ5万人だったベンのYouTubeのフォロワーは、今では38万人を超えた。
相変わらずベンの元には、詐欺まがいのメッセージが殺到している。
そんな中…昨年末、アフリカのカメルーンに住む女性から、支援を求めるメールを受け取った。
彼女は乳児の頃、病気で腹部が腫れ上がってしまったが、十分な手術が受けられなかった。
現在も大きな傷が残り、毎日の強い腹痛から満足に働けず、貧しい暮らしを続けているという。


ベンは当初、詐欺かと疑った。
しかし彼女が診てもらったという現地の病院に連絡し、診断書を取り寄せたところ、事実だと判明した。
アメリカのある病院で手術が可能なのだが、彼女には到底、その費用を捻出することなどできないという。


ベンは応援することを決め、やりとりを続けるうちに、彼女に絵の才能があることに気づいた。
そこで彼が取った行動は…タブレットを送ること!
自ら使い方を指導した動画を送り、デジタルで絵を描くことを勉強させたのである。


そして彼女は、想像を超えた作品を作りあげた。
ベンは、これを画集にして、彼女のアメリカでの手術費用をクラウドファンディングで募った。
すると…世界中から支援が寄せられ、目標の4万ドルを突破。
現在、新型コロナウイルスの影響で、渡航が認められていないが、手術はいつでもできる状況である。


ベンさんはこう話す。
「今は未来を信じて、待つしか方法はありません。貯まったお金で、彼女には薬などの援助を行っています。もちろん彼女もあきらめてはいません。その証拠に今も素晴らしい絵を描き続けています。」


一方、ジョエルはというと…写真集などの売上で出た利益を使って、今度はリベリアの頑張っている人たちを応援しようというプロジェクトを始めている。
その中の一人が理容師を目指す若者、ジョセフ。
農作業中に木から落ち、脊髄を損傷。
車椅子生活となり、仕事がなく困っていた。
ジョエルはベンと相談し、彼にカミソリなどの道具と学費を融資した。


ジョエルさんはこう話す。
「若者にはチャンスをあげてそれを活かして欲しいと思います。私はいつか、彼が自立できる日が来るのではと期待しています。」


誰だってきっかけひとつで自分の状況を改善することができる。
そこに意志があるなら、きっと変えられない未来などない。


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